行雲


「おい!」
里の中心から少し離れた俺の特等席…そこに一人で寝ている…。
無性に腹が立ったので、腹にカカトオトシを入れてやる。
「って…!シカマル…?!急に何するんだってばよ!」
「ったくよー…。」
特等席から転げ落ちたので、眼前に仁王立ちしてやった。
「任務の報告書にサインしろ。ったく…今月で何度目だ?いい加減慣れろ。めんどくせーな。」
「あ、わりぃわりぃ。すっかり忘れてたってばよ!」
「なーにが『すっかり』だ。もうそのセリフは聞き飽きた。」
「聞きなれないセリフの方がよかったか?」
イタズラ小僧の顔で笑っているが、俺は一方的に呆れるだけだ。
「…お前ってやつは…。中忍以上は全員報告書にサイン!任務は報告書出して『任務完了』。いい加減覚えろ。」
「あーわかったわかった!もう覚えたから大丈夫だってばよ!」
「前も同じこと言ってたじゃねーかよ。」
「あれ?そうだったっけ?」
「はぁ…。」
確かこのやり取りは過去に何度かした記憶がある。
確信犯なのか否かは知ったことではないが面倒なやり取りには変わりない。
「あれ?どうしたんだってばよ?サイン揃ったんだから報告書出しに行けってばよ。」
「あーもう面倒になったからヤメだ。」
「はぁ?せっかく俺がサインしたんだから出して来いってばよ。」
「なーにが『せっかく』だ。元はと言えばお前が…」
途中まで言いかけたが、いつもの念が頭を過ぎる。
「…?」
「はぁ…めんどくせー…。」
「お前ってば、そればっかだな。」
「当たり前だろ。ったく…中忍の俺が何で中忍連中の指揮まで執るんだよ…。」
まったくその通りだ。いくら里の人材が不足しているとは言え、中忍になってそう年月も経ってないのにもう中忍の指揮を任されている。面倒な事この上ない。
「いいじゃんかよ!それだけ里に信頼されてるって事だってばよ。」
里の連中に認められたいやつらしい感想だが、俺にはそうも言えない。
「親父と同じこと言ってんじゃねぇよ…ったく。」
そう言ってしまった後に思い出したが、こいつに対して家族の愚痴は禁句となっていた…。
「わりぃ…。」
「ん?何が?」
また出る溜め息と一緒にいつもの場所に座る。
「どうした?さっさと報告書出して『任務完了』して来いってばよ。そもそもそれが目的でここまで来たんだろ?」
「あー…せっかくここまで来たんだから雲でも眺めてからにする…。」
「雲…?」
呆れ顔で見てくるが無視して仰向けになり空を見つめる。
「雲なんか見て面白いか?」
「わからないならわからないでいい。」
会話を続けるのが面倒ですぐに話題を切る。
心地よい風がうたた寝を誘ってきたので、目を閉じる。
そんな気持ちとは裏腹にちょろちょろした鬱陶しいのがいる。

「なぁシカマル…。最近…どうだ…?」
また面倒な話題を振ってきたので顔を合わせないよう、逆側に寝返りをうつ。
「なぁなぁシカマル!」
わざわざ逆側を向いてやったのに目の前に来た。
「んだよ…変な話題振るなよ…。」
億劫だったが目を開けてやると、小指を立て目で合図を送ってくる。
「俺にそんな話題振るかねぇ…。」
「いやさいやさ、お前ら仲いいじゃねぇかよ!」
「…そう見えるんならそうだろ。」
適当な回答を投げつけ、改めて逆側に寝返りをうつ。
「あーもう!なんつーかさ…!もっと、こう…話を広げろってばよ!『お前のほうはどうなんだ?』とかさ。」
「俺にそんなの期待するな。」
即答で切り捨てるが、泣き出した赤ん坊のように喚き出した。
「…おまえのほうはどうなんだ?」
我ながら凄い棒読みだ。しかし、これで満足するだろう。
「あーもう!もっと感情込めろってばよ!」
「ったく…いちいち…」
「いやさ、実はヒナタと軽くケンカしちまってさ…。」
間髪入れず言葉を続けてくる。
どうやら、とりあえず話したいだけのようだ。
「最初はさ、些細な言い合いみたいなモンだったんだけど、ちょっと…な…。」
長い話になりそうなので目を閉じて寝始めた。
「…って聞けってばよ。」
「あー聞いてる聞いてる。」
せっかく気持ちよく寝ようと思ってるのに、と心の中で舌打ちをする。
「ふつーならもっと親身になって聞くモンだってばよ。」
「悪かったな親身じゃなくて。ケンカしたんだったら普通に謝って終わりだろうが。」
「いや、だからさ…その…。」
「ったく、めんどくせーな…。」
すぐに話しを終わらせようとしたが、どうやらそう単純な話ではないようだ。
「お前ってば、ケンカした後に自分から謝るのか?」
「そりゃ自分に非があるって認めたら当然だろ。面倒になる前に自分が折れる。これ当然だ。」
「そうかもしれないけどさ…!」
「なら実行に移して終わりだろ。」
「そう…なんだけどさ。」
溜め息と共に立ち上がる。確か座るときも溜め息と一緒だったな…。
今日は溜め息が一段と多いようだ。
「どこに行くんだってばよ!まだ話は…!」
「報告書。ご要望通りさっさと出してくる…。」
「あ、待てよ。俺も行くってばよ!」


こいつは普段からこんな調子なんだろうか。
付き合ってる女の気持ちを察すると溜め息が出ずにはいられない。
「お前の話は聞くだけ聞いてやったんだから満足だろうがよ。」
「そりゃそうなんだけどさ…。」
「ならこの話はここでお終い!報告書出したし、ごくろーさん。」
強引に話を切り捨てるがどうにも納得してない様子だった。
「もっと…さ!『聞くだけ聞いてやるぞ…?』とかそういうの言えってばよ!」
「てーか聞くには聞いただろ。俺は腹減ったから食事行くんだ。じゃあな。」
「じゃあさじゃあさ!たまには一緒に食べに行くってばよ!」
実は食べたばかりで食事する気など皆無だったので、こう切り返されると困る。
「わーかったわかったから…。聞いてやるから奢れ。」
「…何で俺がお前に奢らなくちゃいけないんだってばよ。」
「お前の話を聞いてやるってのと等価交換だ。」
これが俺にできる最大限の譲歩だ。どうせ大して食べられないから、奢る額も大したことないだろう。
それを知る由もなく、指折り勘定で一生懸命に計算をしている。
「…わかってばよ…。」
渋々だがこちらの要求を飲ませることはできた。
しかし、ここまで言うと、もう一手ほしくなる。
「じゃあチョウジも連れてくから先に行ってろ。」
「ゴメンナサイ。それは勘弁してください。」
あいつに食事を奢ると財布が一気に軽くなる。
下忍の頃の担当上忍が犠牲者第一号だった。
中忍選抜試験後の事であいつは食べすぎで入院もしたっけな…。
そこまで食べられる根性には正直呆れた。
「…俺一人で勘弁してやるから、さっさと行くぞ。」
歩き出した足取りはここに来るときと比べ少し軽くなった。
その変わり、少し重くなったのもいるが…。


「っつーかケンカの原因とかそういうのは把握してるんだろ?」
「まぁ…それなりにはしてるつもりだってばよ。」
「なら把握してることを踏まえて次の一手を考えろ。」
早々にこの面倒事が片付くように会話で誘導するが
どうもこいつは深く考えるのが苦手なようですぐに座礁する。
「いやさ…実はケンカしたときのことってよく覚えてないんだってばよ。」
「なんだそりゃ…。」
「なんつーか…俺ってば今までケンカする相手すらいなかったからケンカの後にどうしたらいいのかわからないんだってばよ。」
「…なるほどね…。」
そうなると最善の一手など見えてくるはずがない。
「なら、自分の非をさっさと認めて謝るのが一番だろ。」
「そんなこと言われたって…自分が悪いかどうかもわかんないのにか?」
「じゃあお前は相手の方が悪かったと思うのか?」
「そ、そんなはずないってばよ!…たぶん…。」
断定してから弱気になるなよ、と思いつつもだいたいの予想はついてきた。
「たまには人に合わせるってのやってみろ。」
腕を組んで考え込んでいるが、そこまで考え込むことなのだろうか。
「人に合わせる…か。なるほど…。」
どうやら一人で納得し始めた。
「なら、俺は先に帰るからな。」
カラ返事で呼び止められる心配のないうちに立ち去った。
最後にチラッと見たあいつは一人で気合を入れていた。
恐らく相手に合わせることにしたのだろう。
あいつは前を向いてどんどん進んでいく。
そんな前ばかり向いていたやつが横を見ることを覚えたのだ。
下忍の頃から比べると随分成長したな、と思うが最後の感情はいつも通りだった。

「…めんどくせーやつ…。」


ナルトくんとシカマルが食べに行ったのは焼肉です。
それでは、引き続き「行雲流水・後編−流水−」をお楽しみください。
感想はBBS・メールにてお願いします。


行雲流水・後編−流水−
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送