ポーラースター

 「う〜〜ん」
 彼は、悩んでいた。愛しい愛しい彼女のことで。
ごろりとベットの上に転がって、天井を見ても、いつもなら絶対に買わないようなパステル色に 彩られた雑誌に目を通しても。太陽のような、と表される金の髪に覆われた頭からは望むものは 浮かんで来ない。
「ど〜〜すりゃいいんだってばよ。ホントに」
その生来の気質には似合わない弱音を吐くほどに、ナルトは悩んでいた。
「ううううぅ…………寝よ。うん。そうしよう。そしたらなんか出てくるかもしんないし!」
 普段全く使わない方向に脳みそを使ったためか、あっさりと、実にあっさりと今まであんなに 悩んでいたのが嘘のようにナルトは眠りについてしまった。


 そこにあったのは静寂と闇だけだった。
目を閉じているのか、開いているのかさえ分からない空間に底知れぬ恐れを感じ、ただ自分の 勘だけを頼りに走り出した。
夜目が、普通の人間よりはるかに利く忍びにとって本来、闇とは親しむべき友であり、現に 今までにも何度か闇の中での任務を受けたこともある。

けれどこの闇はあの冷厳とした安らかな眠りを誘う夜でもない。
纏わりつくような感じは嫌悪感さえ誘う。──ふいに気づく。これと似たような感じを。
自分の奥底で、一度だけ見えたこの身に封印された九尾の狐の、すさまじいチャクラから 放たれていた瘴気。
───いやだ!!

 終わりのないような闇の中を走っていると、やっと前方に光が見えた。その光に向かって 走りつづけていると、いつの間にかあの恐ろしい闇から抜け出していた。そのことに気づいて足を 止めると、いつの間にか見上げる空には幾多の星が輝いている。そんな降り注ぐような星の中でも、 闇から救い出してくれた光はすぐに分かった。
───あれは…
 冬の星の中でも最も輝く天狼星ほどの輝きはない。けれど、決して動くことなく天球で輝き、 旅人たちの指針となる星。
 ナルトはその星に向かって歩き出した。

 どれほど歩いたことだろう、いつの間にか夜空の星は輝く位置を変えていたが、ただ一つの 星だけは変わることなくそこにあった。
 そしてやっと、ナルトは探していたものを見つけ、心からの笑顔を浮かべて手を伸ばした。



 里の中心部から離れ、訓練場が集まる一角に近づけば空に瞬く星はいっそう輝きを増していく。
はやる心のままに急いで待ち合わせの場所に行けばすでにナルトはそこにいた。
「ヒナタ!」
 いつものように自分に向ける笑顔に自分の顔も笑みで緩むのが分かる。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
「いんや、時間ぴったりだってばよ。俺が早かっただけ」
 そう言うと、当たり前のように手を取って、場所を移動する。

 忍びならではの身軽さで森の木々を飛び移り、着いたのはこの森でも一際大きな樹。しっかりと した枝にヒナタを包み込むように座ると、冬の澄んだ空気に、月のないせいで一際輝く星空が良く 見えた。
「へへ、あったけー」
 夜の冷気で冷やされたヒナタのさらさらの髪に顔をうずめて笑う。ナルトのくすくす笑う息が 首筋に掛かるのがくすぐったくて、ヒナタも笑う。二人の間に流れる柔らかな暖かい空気は、たとえ 師走も末の冷たい空気にも壊されることなく二人を包んでいた。
 ふと、おもむろにナルトが腕時計と見てカウントダウンを始める。
「5…4…3…2…1 ハッピーバースデイ!!ヒナタ!」
 祝福の言葉とともにヒナタに口付けを贈る。ヒナタは全てが嬉しくて、幸せで、白い頬を 鮮やかな朱色に染めた。
「で、これ誕生日プレゼントな」
 渡されたのは丁寧にラッピングされた小さな箱。
「あ、開けてもいい?」
「もちろん!」
 手袋と喜びで上手く動かない手をもどかしげにしながら、リボンをほどき、包装紙を解いた そこにあったのは、藍色のビロードに包まれた箱。ドキドキしながら開けた箱に入っていたのは──
「サイズ、9号でいいんだよな」
「うん…」
 ナルトが声をかけるがヒナタの頭にしっかり入ってはいないようで、嬉しげに誕生石の入った 指輪を眺めていた。
 シンプルなプラチナの台に、雫をかたどったヒナタの誕生石のトルコ石が輝いている。
「あれ?……えっと、You are my Polestar ……?」
 しげしげと指輪を眺めていたヒナタが指輪の裏に刻まれていた文字に気づいて読み上げた。 最初はつかめなかった意味も、思い当たるものに気づいて、あっと声をあげてナルトを振り返ると、 贈った本人は目をそらして鼻の頭を所在無さげにかいていた。
「サクラちゃんにさ、相談したら、それがいいだろうって。あ!でもそれ考えたのちゃんと 俺だってばよ」
 数日前、ヒナタへの誕生日プレゼントについて、悩んで悩んで悩みぬいた末に、ナルトが 取った行動とは12のころからの付き合いとなるサクラに相談する、ということだった。



「サクラちゃん、誕生日に何もらったら嬉しい?!」
同い年でありながらその行動や何かから弟のように思っているナルトが開口一番出てきた言葉は それだった。
「誕生日って…あぁ、もうすぐヒナタの誕生日だっけ。それでかぁ」
「うん。何あげようかホント困ってるんだってばよ」
 いつもあふれんばかりの生命力がその身を彩っている彼には珍しく、まとう空気に生彩がない。 心なしか金の髪もうなだれているようだった。
「そーねぇ、去年は何あげたの?」
「う〜んと、去年は任務が入ってて里にいなかったんだってばよ。結構高ランクの任務で帰って 来れたの年明けでさ、用意も何もできなくて、なにがいい?って聞いたら『一緒にいたい』つーから もらった休みの間できるだけいっしょにいた」
<こぉーのバカップル!!>
こともなげに言ったナルトの話の内容に、内なるサクラがこう叫んだとしてなんの不思議が あろう。しかしこの二人のラブラブっぷりは今に始まったことではないので話を進めることにした。
「そう…じゃあ指輪とかあげたことはある?」
「ううん。ないってばよ」
「ならいいのがあるわ。この頃流行ってるのよ、恋人に指輪を送ってもらうの。ああ、でもただの 指輪じゃないんだから、指輪の裏にね、指輪を送られる人間が送るほうにとってどんな存在か、って いうのを何かにたとえて彫るの。たとえば…You are my Sun とかね」


「じゃあ、聞いていい?Polestarってどういう意味がこめられてるの?」
 少し身体をずらしてもっとナルトの顔が見られる位置に着くと、ナルトに問う。
「Polestar…北極星ってほら、全然動かねえから旅するときとか標に使うだろ。だから、どんなに 離れてても、どんなところからでも、俺を導いてこの里につれてきてくれる光、ってことだってばよ。ヒナタがこの里にいるなら、俺は例えどんなところからでもここに、帰って来れるから…」
 照れくさそうに、そうナルトは語った。 
「どうしよう、すごい…嬉しい」
 頬を朱に染めて、いつものはにかんだ笑みとは違う笑顔があまりにも可愛らしいので、ナルトは また唇を重ねた。今度はさっきより長く、深く。
「……ねぇナルト君。指輪、はめてくれる?」
「喜んで」
 そう言うと、恭しくヒナタの右手を取り、薬指に指輪をはめた。
「今はまだ右だけどさ、いつか左のほうにも指輪、贈るから、予約させてってばよ」
プロポーズめいた言葉と、指輪にはめられたトルコ石とはまた違った輝きを持つ蒼い瞳に 覗き込まれたせいで、この上なく顔を真っ赤にしながらも、ヒナタは嬉しそうに何度も何度も うなずいた。
 

You are my Polestar!
君は俺の導きの星!

ヒナタは俺の光。俺の標。俺が帰る所。
だからどうか、笑っていて。そばにいて


「ポーラースター」はですね、最後の一文が頭にふっと浮かんだことから指輪の設定が 決まり、そしてころころ転がるように膨らんで出来上がったものです。
その都合上、二ヶ月以上先のヒナタの誕生日が舞台となってしまいました。…今は ナルトの誕生日期間だというのに季節はずれもいいところです。
でも思いついてせっかく書いたのだから!と、一種開き直りで送ろうと思ったのです。
執筆者/雪宮


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