正義の味方は必ず勝つし、
正直にやっていれば必ず成功する。
何時までそれが真実だと思っていたんだっけ?
今はもう思い出せない。
日が昇っていく。
喉から上がってくる嘔吐感に耐え、
あわてて水を飲み込む。
留まることのない不快な気持ちを押し込めるため、もう一口。
もう真夜中なのに、全然眠くない。
それに、何日もお腹が空かない。
ただ、ひたすらに喉が渇く。
口に水を含む。
また明日も寝不足で学校に行くことになりそうだ。
暗闇の中、部屋の隅でうずくまる主人に対して、
真ん中では布団が、使われた形跡もなく広げられている。
染みひとつ無いそれを見ながら、水を飲む。
そして、水差しが空になったのに気づき、
また水を汲みに行く。
私の周りには、透明で薄い膜の様な物があるんだ。
周りを囲うように、何枚も何枚も。
汲んできたばかりの水を飲みながら、そんな考えが浮かぶ。
手を伸ばして他人に触れても、何枚もあるせいで、
形がはっきりと分らない。
声を飛ばしても、膜のせいで届かない言葉があるから、
言いたいことが伝わらない。
そこで、また水を飲む。
たまに薄いところが在って、そこから手を出してみる。
今まで触れたことのない空気に驚き、闇雲に手を振り回す。
たまたま何かに手がぶつかる。
それが何か確認しようとしても、向こうの空気が怖いからそのまま。
そんなくだらないことを考えている自分。
あまりの自分の滑稽さに、笑いながら、水を飲む。
障子にうっすらと光が差してきた。
もうすぐスズメも鳴き出すだろう。
子供の頃は、無かったこの膜は、何時から出来たのだろうか?
膜に映る自分を見ながら考える。
虚像の私は答えることなく私を見ていた。
また嘔吐感が上がってきた。
私は水を求めた。