心地よい朝。
「あー…よく寝たってばよ。」
大きな欠伸と共に起き上がったナルトはカーテンを一息に明け、窓の外を眺める。
「良い天気だってばよ。」
思わず漏らしてしまう程の爽やかな天気。今にも雨音が聞こえてきそうな昨日の天気が嘘のような快晴だ。満足そうなナルトの視線の先にはいくつものテルテル坊主がいた。
―よくやった。
上司が部下の働きぶりに満足するような面持ちで本日の功労者たちを称える。もし雨なんか降っていたら今日一日の予定がすべて台無しになるところだった。


シアワセの小道

今日の予定…そう、今日はヒナタとのデートだ。
本格的なデートなど今までしたことがなく、本日がデビュー戦となる。付き合い始めてから間もなくヒナタに家の場所を教えたナルトだったが、今まで彼女の方から訪ねて来てくれたことはない。いや、訪ねようとしたことはあるかもしれない。だが、あの性格だ。任務で疲れているだろうと思い、遠慮してしまっているのだろう。そんな調子で、今日みたいに会う約束でもしていないと二人で一日中過ごすことなど滅多にない。

どんな一日になるだろう…。行き先の下見くらいはした方がよかっただろうか…。寝起き眼に寝癖という、正に寝起きの状態でいろいろと考え込む。朝っぱらからよくも色々と考えられるものだ。しかし、まだヒナタのことしか考えていない。そうだ、自分にとっては彼女はそれだけ大きな存在なんだ。そう納得すると笑いが少し込み上げてきて、ヒナタに会いたい気持ちが膨らむ。

待ち合わせまでどれくらい時間があるだろう。今日の待ち合わせは自分の家の近くだし、早く着いてヒナタを待ってみるのも悪くない。 よし、と気合いを入れ、時計を見る。今から食事に20分くらい、それに着替えなどの身支度もそんなもので予定通りの時間に起きていれば余裕は十分にあるはずだった。

「やべっ!」
一気に血の気の引く音が聞こえた。時計をよく見てみると起きる予定時間、というより待ち合わせ時間を過ぎている。
「やべーやべーやべーってばよ!」
さっきまでの爽やかな朝が急転直下、一転して修羅場と化す。自分でも焦りに焦り、平静を保っていられないのがわかる。
「落ち着け落ち着け…落ち着けってばよ!」
懸命に怒鳴るが、全く落ち着けていないのは明白だ。そんなことを冷静に突っ込んでいる暇がないのもわかっている。

「と、とにかく着替えるってばよ。」
わけがわからなくなり逐一確認する。急いで着替えて鏡を覗くと、いつもよりボサボサな髪が目立つ。まだ寝起きであろう顔もわかる。だが、今のナルトにとってそれは些細な事で、ヒナタとの待ち合わせが最優先事項だ。

早々に支度を整え、家のドアを蹴破る勢いで駆け出す。このまま待ち合わせ場所に直行!…の前に家の鍵を忘れていた。完璧な遅刻だが、少しでも…一分一秒でも早く待ち合わせ場所に行きたい。そしてヒナタに会いたい。急いで鍵をかけると、改めて気合いを入れ直して再び駆け出す。
と、思った瞬間、自分の中ですべての時が止まる。
「ヒ、ヒナタぁ!?」
いきなりで素っ頓狂な声を出してしまった。そんなナルトとは正反対にヒナタは落ち着いている。まさかナルトの遅刻は予想の範疇だったのだろうか。
「よかった…。ここにいて…。」
どこか安堵したような表情を浮かべたヒナタはそっと胸を撫で下ろす。その安堵とは対称的にナルトは状況の整理ができずに混乱しだす。寝坊して、急いで出発しようとすると待ち合わせの相手が急に目の前に現れて…?
「待ち合わせ場所にいなかったから…その、思い切って来ちゃった。」
「お、おう…。」
急な展開にナルトは動揺を隠せずにいる。それもそうだ。会いたい会いたいと思っていたヒナタが急に目の前に現れたのだ。しかも彼女の方からは来たことがない自分の家に。
「よかった…。ナルトくんが遅れるなんて珍しいから、心配しちゃった…。」
「あ、あぁ…。」
間の抜けた声で返事をする。言われてみればヒナタとの約束に遅れたことなどほとんどなかった。それで心配してきてくれたようだ。それなのに自分は…。そう思うと小さいながら罪悪感を感じてしまう。
「寝坊…しただけだってばよ。」
咄嗟の言い訳が思い浮かぶはずもなく…というよりヒナタに対して言い訳などしたくなかったが、アカデミー時代の悪癖が発露してしまった。
「そう、なんだ…。任務の疲れが抜けてないの…?」
寝坊を責めるのではなく、寝坊した理由を探して心配してくれている。元イタズラ小僧のナルトにとって新鮮な対応で、その後の対応に困ってしまう。こういうときは素直に叱られた方が楽だが、今の相手にそれは望めない。

「えっと…これから、どうしようか…。」
ナルトが言葉に詰まり生じた僅かな沈黙の後に、相変わらず控えめな調子だが珍しくヒナタの方から話題が提供された。寝起きにこんな事態になってしまい混乱しているナルトが提案など出来るはずもなく、ヒナタの提案は賢い。
「ナ、ナルトくんお腹空いてない…?」
「そういえば…空いてるってばよ。」
少しうつむき加減だが、ヒナタは一生懸命に話を続けてくれる。そんな話題に同意したナルトはまだ起きてから何も口にしていない。せいぜい、さっき家を出るときに水を飲んだ程度だ。お腹の辺りを軽くさすり、空腹の表情を浮かべる。
「も、もうお昼だもんね…。」
「えーと…そ、そうだってばよ。」
言葉が繋がらない。目線も泳いでしまっている。何とか言葉を繋げて会話を続けようとするナルトだが、意識すればするほど言葉が出てこない。徐々に焦りが増し、背中には変な汗をかいてきた。
「そ、それじゃあ…ナルトくんのお家でご飯食べない…?私が、作るから…。」
いきなりの申し出だ。これはつまりヒナタがナルトの家に来るということになる。部屋なんて起きてそのままで、とてもじゃないが見せられる状態じゃない。それに冷蔵庫の中は確か残り物が少しあるくらいだろうし…。それで二人分の食事を作ることなどできるだろうか。
「あ、あの…迷惑なら…その、急な思いつきだし…。」
思い切って言ってみたが、ナルトがしばらく考え込んでしまい、急に不安になったのだろう。少しうつむき加減の上目遣いで遠慮がちに申し出を取り下げようとする。させまいとナルトは首を横に振り、取り下げかけた申し出を半ば強引に受け取る。
「んなことないってばよ!ヒナタがどんなの作るか考えてたんだってばよ!」
「よかった…。でも、あんまり期待しないでね。」
期待するなと言われても愛しの彼女が家に来て手料理を食べさせてくれるのだ。期待するなという方が無茶だ。否が応でも期待してしまう。それにしても今は言葉が自然と出てきた。つい先刻言葉に詰まっていた自分からは想像できないくらいスムーズに言葉が出てきてくれた。内心それだけ嬉しかったのだろう。
「そうと決まれば早く行くってばよ!」
「ふふ…急に元気になったね。」
それはそうだ。ヒナタが家に来てくれる。これだけで元気になるには十分な理由だ。

さっそく家に向かい、冷蔵の中を確認してみるが、本当に何もない…。作るも何も、材料がなくては話にならない。
(どうするってばよ…。)
普段ならカップラーメン一択だが、今はそうもいかない。ヒナタからの申し出を無碍にするわけにはいかない。

「何もないか…これからのこともあるし、買いに行くってばよ。」
「え、そうだね…。何もないと寂しいしね…。」
そうは言っても、これから買い物に行くとなると実際に食べるのはいつになるだろう。ふと疑問が浮かび、一人で腕を組んで悩んでしまう。

「それなら…途中の一楽で食べて行こうか…?」
いいアイディアだ。腕を組んでまで考えたのに相談した瞬間に解決してしまった。同意を求めるヒナタと目が合い、決定の頷きで確認するとさっそく出かける準備をする。
「ってーと…作ってくれるのは夕飯になるってばよ。」
「え、うん…。頑張る…。」
そういって彼女は少し照れてしまった。夕飯を作ってくれるということは少なくともそれまでは一緒にいることができる。そう思うと少し顔が緩んでしまう。


紆余曲折を経て一日中ヒナタと過ごし、しかも手料理を食べることが出来た。
経過はどうあれ、結果的には良い一日だったが、果たしてデートと呼べるのだろうか…。

テーマは「新婚生活」。
二人で夕飯のお買い物だなんて新婚カップルのすることですYO!!
っていうかデートに寝坊ってかっこ悪すぎ。
裏設定としては前日にデートコースの下見をしようとしたけど、急用(里の方の事務作業)で出来なくなっちゃいました。それで雨の降りそうな空模様を眺めて溜め息をついたり、時々ボーっと考え事してるかと思えば急ににやけて気味悪がられてました。

基本的な誤字脱字と、この配色(文字色+背景色)がちゃんと見えてるか不安です。
見難かったら言ってください。配色変えます。


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